最悪の海賊の血を引く、ポートガス・D・エースの処刑日が決まった。
それに合わせ、世界中に散らばる海軍実力者へ処刑の行われるマリンフォードへの招集がかかる。
じりじりじり、と鳴く電伝虫に胸騒ぎを感じながら、は受話器を取った。聞きなれた声、一方的な言葉、Yesと返事するしかなかった。

逃げ出したくてたまらない。
けれど、それは許されない。
海軍少将、海軍の鬼、分隊を任される者。
地位と戦歴、力量が、すべて必要とされている。
海賊を殺す者として。
正義の代行者として。


「ぬしぁ飛び込んでくるやつ全て殺せ」


サカズキの執務室に呼び出され、直々に命を受ける。
大将赤犬サカズキ。
を育てていた過去もあり、が少将になった今でも、サカズキは大きな戦闘の際にはを呼びつけ、サカズキ個人の戦力としていた。
の戦闘力と能力をきっと誰よりも知っているのが、サカズキだ。
そんなサカズキには逆らえないし、逆らおうと思ったことなんてなかった。
だってサカズキは、いつでも正義の為に戦っている。
幼いころからそんなサカズキの姿を見てきたし、父親代わりであるガープだって、センゴクだって、クザンだってボルサリーノだって、みんな正義の為に身を粉にして戦っている。

正義の為に。
正義は正しい。だから、逆らうことが間違ってる。
逆らおうなんて考えが、そもそもおかしい。
そう思いながらも、はどうしてもサカズキの命令を受けたくないと思ってしまった。

今回は四皇白ひげ率いる白ひげ海賊団クルーの処刑となる。
前回のゴール・D・ロジャー処刑の際も、海賊たちによる暴動が起こった。
今回も大きな反乱があるとみて、まず間違いない。
白ひげ海賊団の数は、参加を含めると数千人規模になる大きな海賊団。
過去最大の戦闘に、下手をすれば海軍と海賊の全面戦争になるかもしれない。

海軍の絶対拠点、マリンフォード。

海軍の威厳、尊厳、誇り。
全てが在るこの場所は、何に代えても守り切らねばならない。
相手が数千で攻めてくるのであれば、こちらは数万の兵で守ればいい。
平和の為に。
絶対悪である海賊王の血を根絶やしにする為に。

ポートガス・D・エースの処刑。
マリンフォードの死守。
殺せと、命じられた。


「拝命致します」


命令が下ったのなら、下ってしまったのなら、従う以外の道はない。
敬礼した手は、震えていなかったか。
自分は今、どんな顔をしている?何を考えている?敬礼した左手、握りしめた右手の意味は?
誰の命を、守るための正義だろうか。
誰を殺す、正義なのだろう。

守りたいものは、なに。

初めて、迷った。
海賊は殺さないといけない、でも、エースは殺したくない。
迷いを抱えたまま、執務室を後にした。






  
2017/09/03