「じゃま」
聞こえたのは大人達の耳障りな声ではなくて。
「あれ、こども?」
感じたのは痛みではなくて。
「キミ、うんがよかったね」
与えられたのは恐怖じゃなくて。
目を開ければ、血に染まった少年が立っていた。
自分を痛めつけようとした大人達はおらず、辺りに肉塊が散乱するのみ。
恐怖よりも、大人達から自分を救ってくれた感謝の方が大きかった。
「あの、ありがとう」
呆然と言えば、少年は優しく微笑んだ。
久しぶりに感じた優しさに安堵し、
見た目が自分とそう変わらぬ子供という事から更に安心した。
気付けば一緒に座り、ぽつぽつと話を始めていた。
「僕はミケーレ。ミケーレ=コリエント=由紗」
「ユサ?」
「お母さんが、ジャポーネの人なんだ」
「そう。由紗か、いい名前だね。きにいったよ」
「ありがとう。君の名前は?」
「ボクは」
「。今日はたすけてくれてありがとう」
「べつに。ただあの人たちがじゃまだっただけだよ」
「つよいんだね」
「由紗は、ボクがこわくない?」
「こわい?どうして?」
「ほら、血がいっぱい」
「こわくない。たすけてもらったんだもん」
怖さなど微塵も感じない。
それよりも、嬉しい。
自分と話をしてる、会話をしてくれる。
人と接するのも、人として扱われるのも随分と久しぶりだ。
スラムで盗みを働き、大人から殴られて。
人とは、こんなにも温かかっただろうか。
が、何か特別な存在のように思えて仕方がない。
「じゃあ、ボクはいくね」
「え・・・」
体が芯から凍りつくような気がした。
折角温もりを感じたのに、また手放さなければ為らないのだろうか。
イヤだ。
独りは、とても寂しい。
「ま、まって・・・!」
「どうしたの?」
「あの、その、僕もいっしょに行っちゃダメ・・・かな?」
は驚いたように由紗を見た。
由紗は恥じ入ったように俯いた。
なんという事を言ってしまったのだろう。
そんなの、ダメに決まっている。
自分はスラムの子供。
は、見る限り裕福な家の子供。
格が違う。
心の中で諦めていた時、
「いいよ」
勢いよく、顔を上げた。
は笑っている。
「いいの?」
「いいよ」
「ほんとうに?」
「ボクがゆるしたの。ついておいで」
「行く!いっしょに行く!!」
がまるで、神か何かのように見えた。
「そうだな。ねぇ、由紗。由紗は字をよめる?」
それが自分への叱咤だと感じたのか、申し訳なさそうに由紗は首を横に振る。
しかし、は由紗を責めたりはせず、そっか、と言っただけだった。
「じゃあ、まずはべんきょうだね。できる?」
「やる。の言うことなら、何でもきくよ!」
「いい子。由紗はいい子だね」
褒められて、純粋に嬉しかった。
の言う事なら、なんでも従おう。
そう、幼心心に誓った。
この人についていこう。
ずっとずっと、この人に。
「さぁ、立って」
手を差し伸べられて。
「いっしょに行こう」
微笑まれて。
「これからよろしくね、由紗」
名前を呼ばれて。
「僕のほうこそよろしくね、!」
の手を握れば、ぷんと血の匂いがしたが、関係ない。
繋いだ手が温かく、その事が嬉しくてたまらなかった。
「由紗」
「はい、ここに」
「行くよ」
「様の仰せのままに」
今でも貴方の隣に居れる事に、心からの感謝を。
2006 03 22
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