「あ・・・」
彼は街で偶然知り合いに出会ったように驚き、その再会を少なからず喜び、
彼に出会ってしまった彼女は嫌悪を丸出しにして露骨に顔を顰めた。
彼女は彼と眼が合った瞬間踵を返し逃げ出そうとしたが、彼のほうが上手だった。
「どうして逃げるの?久しぶりに会ったんだからお茶でもしようよ」
「・・・・・・」
「チャオ、毒サソリのビアンキ」
行く手には笑顔のがおり、ビアンキは逃げることが出来なかった。
ビアンキはに何故だか逆らう事が出来なかった。
彼の事がとても嫌いだったし、共に居る事が苦痛でならない。
だが逃げ出せないという現実。
こうして小洒落た喫茶店で一緒にアフタヌーンティーを飲んでいるなんて、狂気の沙汰だ。
全身が身の毛立つ様な嫌悪感の中、冷静を装える自分を褒めてやりたいとビアンキは思った。
あぁ、どうしてこれ程にも目の前で優雅にエスプレッソを啜るが憎くてたまらないのだろう。
「ビアンキは飲み物以外に何かいらない?ケーキとかサンドウィッチとか」
「いらないわ」
「そう?じゃ、ボクもいいや」
ぱたん、とメニューを閉じ、は頬杖を付きビアンキを見つめた。
無言で、ただじっと。
それがまたどうしようもなく居心地が悪かった。
向けられているの瞳は無機質で、ビアンキはなんとも落ち着かない気分になる。
ビアンキは手元にあるカモミールティーをそっと口元まで運び、喉へと流し込んだ。
本来ならばカモミールのすっきりとした味が口の中一杯に広がり、美味しい、と思うのだろうが、
今は味も何もあったもんじゃない。
冷静さを保つので精一杯で、カモミールティーの味を吟味する余裕など無かった。
指が震える。
一応隠してはいるもののは気付いているだろう。
そして、心の中では嘲笑ってるに違いない。
そう思うとビアンキは自分がとても惨めに思えた。
一刻も早くこの場を去りたいのだがはいつになったら開放してくれる事か。
「偶には会いに来てよ、じゃないと寂しいよ」
苦笑し哀愁を漂わせるも、惑わされてはいけない。
相手はだ。
毅然に振舞わねばの雰囲気に飲まれてしまう。
「あら、寂しがる道理がわからないわ。だって私と貴方は何の関係もないじゃない」
かちゃりとティーカップを元の位置に戻し、きりりとをねめつける。
そんなビアンキの鋭い視線を受けつつも、尚もにこやかに微笑むが憎らしい。
甘い誘惑すら感じるその微笑みは、いっその事憎悪すら覚えた。
「用が無いなら帰らせて」
「いいじゃん、別に」
「私は忙しいの」
「じゃあ、時間を作ってよ」
「どうして貴方の為にわざわざ時間を作らなきゃいけないの?」
「だって、ボクはビアンキを愛してるから」
「思っても無い事言わないでよ!!」
がたり、と思わず喫茶店の中だというのに声を荒げて立ち上がってしまった。
お陰で店内の客の目の半分はビアンキとに注がれる。
「本当の事なんだけど?」
「うそ」
「嘘かどうかはビアンキが決めることじゃない。ボクは本気だよ」
まぁ、遊びだけどね、とは心の中で続けた。
そんな思いをビアンキは知る術もなく、ただに踊らされる。
「だってビアンキはボクの愛人だもの。愛してなきゃ愛人とはいわない」
ビアンキは驚きのあまり立ち上がったまま固まってしまい、
の言葉を否定する事も、拒絶する事も出来なかった。
対するはそんなビアンキが面白いのか、けらけらと笑っている。
「ビアンキはボクのこと嫌い?」
直ぐに答えられなかったのは、
先程の出来事が尾を引いて困惑していたから、と言い訳しておこう。
「・・・・・えぇ、好きではないわ」
嫌いではないと言っているようなものだ、とビアンキは自嘲した。
どうして、あんたなんか大ッ嫌い、と盛大に言ってやれなかったのだろう。
はにこやかに笑っていた。
喜んでいるようにも、嘲笑っているようにも見える独特の笑み。
「明瞭な答え、否定の色が強い答えを貰って喜ぶだなんて、マゾヒストみたいね」
「そうでもないよ」
は一呼吸置いて、喜色を含んだ声音で言った。
「だって、ビアンキの 『好きじゃない』 は好きってことだもの」
ごちそうさま、と言っては席を立った。
会計をビアンキの分まで払い、ビアンキを残して喫茶店を出て行った。
残されたビアンキはただただ呆然とし、暫くはその場を去ることが出来なかった。
「好きじゃないのよ、本当に」
憎くてたまらないのに、共に居るのが苦痛でならないのに。
「だから、会いたくなかったのよ―――」
の事が気になっているなんて、信じたくなかったから。
これ以上、自覚したくなかったから。
偶然だなんて信じない。
もしそうだとしたら、と自分がなにかしら運命で繋がっていると言う事になってしまうから。
そんなこと絶対に認めない、認めたくない。
アフタヌーンティーなんて、好きじゃない。
2006 04 21
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