本当に彼、ドン・インペラトーレ 名をと言う
は、気紛れだとその隣を歩いている由紗は思う。
ある時は聖母の様な慈しみ深い慈愛に満ちた笑顔でスラムの子供らに施しをしたと思えば、
またある時は道を歩いていて擦れ違いざまに肩をぶつけ謝らなかった人物に対しナイフで心臓を一突きにしたり、
つい先日などはショーウィンドウに飾られたぬいぐるみをいたく気に入り店ごと買ってしまった始末だ。
(まぁ、その買われたぬいぐるみ達はわずか二日で飽きられただの布と綿になっていたが。)
今日、一緒に街を歩いているはどうなのだろう、と由紗はぼんやりと思っていた。
別にどうでもいいといったらいいことだし、どうでも良く無いといえば良くない。
がどうしようと由紗はそれに従うまで。
何も言わず、黙っての気の済むまで好きにさせてやるだけだ。
ただ、全ての皺寄せはではなく由紗に来る。
は自分の気が済めばまた歩き出す。
由紗は直ぐにでもその後を追って歩き出したいのだが、そうもいかない。
例えば、先程例に挙げた中で最も処理が大変なのが衝動買いだ。
一見すれば人を殺した時が一番大変そうに思えるのだが、それは思っているよりずっと楽だ。
とんずらをこいてしまえばいいだけなのである。
は証拠を残すようなヘマはしないし、擦れ違いざまにグッサリと、
一瞬で片をつけてしまうのでそのまま歩き続ければ誰にも気付かれずに済むのだ。
しかし衝動買いの場合はどうだろう。
支払、商品の受け渡し、店ごと買った場合などは何から何まで大変である。
は自分の気に入った商品だけを持つと上機嫌で先へ進むのに対し、
由紗は事後処理で多大な時間を裂き、どんどんと先を行く<の背中を見ながら気を急くのだ。
幼い頃から常に傍に居る由紗でも、未だは訳の解らない部分が多い。
だからの今日の気分が解る訳でもなく、
の気紛れが由紗とが共に居る時間が減らされる事が無いよう祈るばかりである。
「あ、由紗見て。花売りが居るよ」
「売っているのは花ではなく、花びらみたいですね」
「へぇ、花びら!買ってくる」
が駆けて行く様は到底成人男性の行動とは思えないが、
本人が楽しそうにしているので良しとしよう。
(まだ少し幼いように思える顔立ちも手伝ってその様子は可笑しくもなんとも無い。
寧ろ似合っているようにすら思える。)
「へへ、籠ごと買っちゃった」
「お気に召したようですね」
「うん、ほら!!」
ぶわ、とたった今が買ってきた花びらが宙を舞った。
赤、白、桃、黄、橙、紫、様々な色の花びらが風に攫われてゆく。
「綺麗でしょ?」
「えぇ」
確かに花びらの舞う様子はどこかしら幻想的で美しかった。
だが、微笑みながら首を傾げるの方が綺麗だ、
と由紗は思ったのだが、自分よりも背丈が有り、
年上であるにその様な口説き文句を言うのもどうかと思い、
自分の胸の内に仕舞って置いた。
どうやら、今回の彼の気紛れは比較的良い方に向いたようだった。
微笑むが見れて、由紗は大変満足していた。
2006 04 21
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