お子さま行進曲



「そんなことあったっけ?」

「覚えてねェな」

「いや、俺は覚えてる!忘れるか、あの屈辱!!!」


ぷえっとはさくらんぼの種を吐き出しながら、一人盛り上がるサッチをマルコと見る。
覚えてる?とマルコに視線を向けると、マルコは覚えてない、と首を横に振る。
とマルコの中では大して印象に残らなかった出来事なのだろうけれど、サッチにしたらそうではなかったらしい。
テーブルの上に置かれたさくらんぼを食べながら、サッチはどんっとテーブルを叩いた。


「しかし!俺は成長した!!見よ、この片結びを!!」


先程まで口の中にあった茎を取りだすと、所々折れたりちぎれかけたりしていたが、なんとか片結びになっている茎。
ぶっちゃけどうでもいい、というのがとマルコの感想なのだけど、ここで適当にあしらうとまたサッチがごねるのでそれなりに言葉を返す。
ふふんと天狗になっているサッチはどうでもよくて、はさくらんぼを食べる方がよっぽど大事だ。マルコは特に興味ある事がないけれど、だからといって調子に乗ったサッチと会話するのも疲れるので視線を外す。
もぐもぐとさくらんぼを食べるが、あ、とサッチを見た。


「実際サッチって、キス上手なの?」


またいらん事を!とマルコが頭を抱えるのと同時に、に見つめられたサッチは固まった。


「いやそりゃお前…何言ってんだよ、ハハハハハ!!」

「そだよねー。でも、キスの上手い下手ってよくわかんないんだよね。あるの?」

「あ、あるに決まってんだろ、そりゃ…!」

「そうなんだー。じゃあもキス上手なのかなァ」


いつの間にかもぐもぐしていたと思えば、の口から出てきたのは綺麗に片結びされた茎だった。しかも三つ一気に。
ぎょっとしたのはサッチだけで、マルコは平然としている。


「でも別にこれ、誰でもできるよ?マルコもできるよねぇ?」

「ん?………ほい」

「ほら、マルコもできた。誰でもできるし、できたからどうってことはないんじゃないかなぁ」


が言うと、マルコはあっという間に茎を一本片結びにして見せた。
サッチは小首をかしげていると、やっぱり平然としているマルコを見る。
もマルコも昔から舌使いが器用だった。それは確かだ。いや、それだけだ。
よく考えると確かに舌使いが上手いだけで、イコールキスが上手いとはつながらないんじゃないだろうか。
そうだそうだ、マルコはともかく、もだなんて…。ないない、この元気いっぱいちょっとおバカだけど能天気な娘に限ってそれはない。
ちょっと余計なことまで考えてしまいそうなサッチはぶんぶん首を振り、考えを振り払う。


「そ、そうだよなァ、やっぱりこれは迷信だよなァ!」


ははははは、と笑えば、もやっぱそうだよねー、と笑う。
何故かマルコも笑っていた。






  
後日談
マルコの笑顔に不穏な雰囲気を感じたサッチだが、深読みはやめておこうと思ったそうな。
2011/08/01