お子さま行進曲 ロジェと!



もそれのむ!」

「おー、呑め呑めー!!」


居間で座布団の上に座りながらテレビを見て酒を呑んでいるサッチの膝の上にいるは、サッチが呑んでいるものに興味を持った。(つまみのチーカマは当の昔に食べ終わっている)
サスペンスドラマは最初こそおとなしく見ていただが、推理のシーンになると理解できなくなったのか、飽きてもぞもぞと動き出す。
ちょうだいちょうだい、とサッチが持っている缶ビールをねだれば、すでに出来上がってるサッチは、が18歳未満だろうと5歳未満だろうと気にすることもなく気前よく「のめのめ」と缶を渡した。
さっそくはふんふんと受け取った缶の飲み口に鼻を寄せにおいをかぐ。
うーんとそのにおいに小首を傾げ、頭上にいるサッチに感想を述べた。


「おいしくなさそう」

「うめぇぞー。大人の飲みもんだ」

「おとなかー。まだこどもだからなー」


赤い顔でがははと笑うだけのサッチを見て、苦そうで変な匂いがするけど、楽しくなれそうな気がするから呑んでみようとが缶に口をつけようとした瞬間。


「お前にゃまだはえェよい」


後からやってきたマルコがの手にあった缶ビールを取り上げ、そのまま自身の口元へと運んだ。
一気に飲み干してはみたものの、長時間テーブルに放置されていた所為で生ぬるい。炭酸も弱くなっていて、サッチに飲ませればよかったと後悔するも後の祭り。
カン、とテーブルの上に戻された缶の中身は既になく、自分のものを取り上げられ、飲み干される様を見ていたは半分泣きながらマルコの服の裾をひっぱった。


の!のー!!」

「ンだよマルコ、ちっとくれーいいだろォ?」

「よくねーよ、馬鹿。せめて中学入ってからにしろ」


それだって一般的に見たらよろしくないのだが、やんちゃをしてきた大人からしたら当たり前の範囲だ。校舎裏で隠れて煙草を吸い、盗んだバイクで走りだし、仲間内で酒盛りをした懐かしき青春時代―――の、話はひとまず置いといて。
自分たちがそうだったので、子供に酒を与える事には寛大だ。だが、幾らなんでもは幼すぎる。酒は水のようなものだという認識のマルコでも、10にも満たない幼児に酒を与えるのははばかられた。

だというのに。


「マルコはケチだなー。なァ

「なー!?あれのだったのにな!?」


アンポンタンどもはどうにもわからないらしい。
酒を飲んで酔っ払うのは勝手だが、ウザ絡みされるのは耐えられない。もう誰も見ていないだろうドラマのエンドロールが流れているテレビを消し、酒を飲むと言ってきかないを小脇に抱え、寝かしつけようとリビングから去ろうとした時だった。


「よし、なら俺がでも飲める酒を作ってやる!」


「さけ!」とがマルコの腕からすり抜け、ふらふらと立ち上がるサッチの背に素早く上る。引き剥がそうと試みても、飲食物の為なら恵まれた身体能力をフルに発揮するは厄介だ。引っ張ってもサッチの服が伸びるだけで、一向に手を離す気配がない。を引き剥がすのを諦めておいサッチ、とサッチを諌めてみても、酔っぱらいにはてんで効果がない。
仕方がないのでマルコも後をついて台所に入れば、サッチの趣味で買い集められているリキュールを取り出している所だった。
透明な水飲みグラスにリキュールと、冷蔵庫にあるの為にと常備されているジュースを混ぜ合わせ、大人二人がかわるがわる口にする。


「ほれ、これだったらいいだろ」

「…まだ濃くねェか?」

「えー、これ以上薄くしたらただのジュースだろ」

「お前さん、これ飲む相手がだってわかってんのかよい」

「ねー、ものむ、のむー」

「もうちっと待てって」


に飲ませる前に、と手渡されたものを飲みながら、大人二人はやいやい話し合う。
サッチがの為に、と作った酒は、カシスオレンジだった。オレンジジュースに甘めの酒を加えたそれは、確かに酒というよりはジュースで、ビールと比べたらまだに飲ませてもいいかなと思わせる。アルコール度数もジュースの量を多くすればかなり低くなるだろうし、実際にほぼオレンジジュースの味しかしない。
まだかまだかとサッチの肩口からこちらを覗き込んでいるに、やっと納得できる薄さまで薄められたカシスオレンジが手渡される。


「これが、さけ!」


嬉しそうに受け取ると同時に、ふんふんと液体の匂いを確認している。マルコやサッチからしたらオレンジジュースとしか思えないそれも、アルコールに慣れていないからしたら違うらしい。


「…ちょっと、さけ?へんなにおい」

「へェ、わかるもんなんだな」

「残してもいいからな」


子供の敏感さに大人が感心していると、がグラスを口に運び傾ける。一口目は思っていた味と違ったのか、暫く酒を口に含んだまま首をかしげていた。こくりと小さな喉が動いて飲み込んだと思えば、そのままぐびぐびと勢いよくグラスを空にした。


「おい、あんま一気に飲むな」

「これはこれで!うまい!」

「おっ、酒の味がわかるか!そーかそーか!もっと呑むか!」

「ん!おかわり!!」


にこにこー、と機嫌よくがサッチに空になったグラスを渡したところで、保護者によるサッチ両名の頭に拳骨が落ちた。


「もう飲んだだろ、寝ろ」

「もっと!」

「ガキがガバガバ飲むんじゃねェよい」

「あんなんジュースだろー、けちけちすんなよー」

「お前は!ガキに酒飲ますな!!」


もう一度サッチに拳骨が落ちたところで、眠かったのかも段々おとなしくなる。時計を見ると23時を回っており、サッチの晩酌にが同席すると碌なことがないとため息をついた。
サッチが自身の為にと用意したつまみにつられ、夕飯を食べた後だというのにそれを平らげる。食べ過ぎないよう注意しているのはサッチも知っているだろうに、まるで気にしない。就寝前の歯磨きも主にマルコの仕事だが、寝ぼけ眼のは口にモノを突っ込まれるとなんでも食べ物だと勘違いして噛んでくるので一苦労だ。
余計な手間ばかり増やす癖に、サッチ自身は楽しく飲んで酔っているからなおさら腹立たしい。
これでに晩酌のクセがついたらどうしてやろうかと思いながら、マルコはを部屋に運んだ。

*

翌日二日酔いを心配した保護者だったけれど、けろりとしている様子に杞憂だったと胸をなでおろす。
サッチは「こいつは将来呑兵衛だぞ!」と笑っていたら、三度マルコに拳骨を貰った。






悪い大人しかいません。
2018/09/16