
お子さま行進曲 ロジェと!
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ブブブ、とテーブルの上に置いた携帯電話が震えた。 煙草を吸いながら競馬新聞を眺めていたサッチは振り返り、携帯を手に取りディスプレイを見る。そこに表示された名前はよく知っている相手のものではあったが、この人物が家の電話ではなくこうして直接携帯に連絡を取ってくる事は珍しかった。 一体何の用か。 軽く首を傾げると、サッチは通話ボタンを押して耳に当てる。 「…よう、チビちゃん何の用だよ」 『サッチのおじちゃんこんばんは!今平気?』 「あァ、構わねェよ」 受話器の向こうの相手の、やけにはしゃいだ声を聞いて微かに嫌な予感が走る。こいつがこんなテンションでいる時は、決まって何か企んでいる時だった。 例えば悪戯だとか、嫌がらせだとか。時には協力を頼まれた立場であるサッチ自身が、いつのまにかその標的にされている事もあるので油断がならない。そうでなく自分も勝利者の立場に居られるのならば、この相手と一緒に遊ぶのは楽しいのだが。 『あのねあのね、おじちゃんにちょっとお願いがあるんだー』 楽しげな声は、果たして天使の福音か悪魔の囁きか。サッチはくっと息を呑む。 「…お願い?…またおれが痛い目見るオチじゃねェだろうな?」 『やだなぁサッチのおじちゃんたら、今回は違うよ。生贄に捧げられるのは別の人になる予定だよ』 「言葉の選び方に若干不安な所はあるが…まァ、聞くだけ聞いてやんよ」 諦めとほんの微かな期待を込めてサッチは話を促した。 『…というわけ。どう?』 吸っていた煙草が二本目に達する頃、相手の話が終わる。今しがた聞かされた話の内容を噛み砕き咀嚼しながら、サッチは煙草の煙を吐き出した。 「またお前は下らねェ事考えるよなァ」 心に思った事を素直に吐き出すと、電話の相手はむ、と小さな唸り声を上げた。 『そういう事言うの?サッチのおじちゃんなら喜んで協力してくれると思ったけど?』 「おれを何だと思ってんだよ」 持ち掛けられた話は、何のことは無い。要はただの嫌がらせの計画だった。それなりに幸せそうにしている一対の恋人を困らせてやろうという、他愛無い試み。 サッチ自身もそういったちょっかいは嫌いではないし、事実同じ様な事は何度かしたことがある。しかし、この相手からその類の企みを持ちかけられたのは初めての事だった。どうやら何か心境の変化があったらしい。 「…まァ用件は分かったけどよ、目的は何なんだい」 『別に何も?ちょっとからかってやりたいだけ』 「…やっぱお前は悪魔の子だぜ……」 『もう、ちょっとしたお遊びでしょ?手伝ってくれるのくれないの、どっち?』 むぅ、と膨れた様子で問いかけてくる彼女に知らず顔に笑みが広がる。まァ仕方ねェな、この子の誘いだからな、とサッチは自分を納得させた。諸々の事情で無下には出来ない相手なので、こちらとしても色々気を遣う。 「へいへい、分かりましたよ。付き合ってやんよ」 『なーに、その言い方。いざやるってなったら僕より張りきる癖に』 「やるからには楽しくなけりゃつまらねェだろ?それよりチビちゃん、おれを誘うからにゃぁ退屈しない遊びになるんだろうな?」 『ふふん、僕の手にかかればなんてことないさ。仕上げはもちろんサッチのおじちゃんの断末魔で幕引きにしてみせるよ』 「お前今回は違うってさっき言ったよな!?」 ぷつり。 「……ふぅ」 通話が終わり、サッチは携帯の電源ボタンを押すと深いため息を吐いた。そんなサッチの耳に、どたどたと廊下を走ってこちらに向かってくるらしい足音が届く。 こんな風に廊下を走ってやってくる人物等、この家では限られている。ましてや、これ程軽い足音の持ち主等。 サッチが苦笑いしながら障子戸の方へと振り返ると同時に、扉がスパンッといい音を立てて開かれた。現れたセーラー服の少女は、サッチの姿を認識すると満面の笑みを浮かべる。 「サッチー!!今度の休みはロジェと遊んでくるよ!泊まって次の日に帰るから!」 「そうかい、楽しんでこいよ」 浮かれた様子のに、サッチは適当に返事を返した。 ロジェというのは近所に住むの幼友達である。まだほんの小さい頃に二人は知り合い友達となり、通う学校も違うというのにそれからずっと仲良くしていた。近所で一緒に遊べる友人が少なかったせいかは昔からロジェを大層気に入っており、まるで犬の様にキャンキャンと見えない尻尾を振りながら懐いている。その忠犬振りはサッチをして哀れみを感じさせる程だった。 友達と遊ぶのが楽しみなのか、サッチの気のない返事を全く気にせずはにこにこと楽しそうに笑っている。 「ロジェが一緒にケーキ食べようってー!たのしみたのしみ」 「……そうかい」 相変わらず食い気に釣られているを見て、サッチは苦く笑う。成長しても、こういう『チョロイ』所は全く変わらないのだと思うとの将来が少し心配になった。 ―――――――――― 最近、どうもおかしい。 「おい、そりゃ何だよい」 「ロジェがね、この課題やりたくないから代わりにお願いって」 は振り向きもせず、せっせとマグカップの絵付けに勤しんでいる。白の何の変哲もないマグカップの表面に、灰色の絵の具で何故かたくさんの手裏剣を描いていた。 マグカップの絵付けが課題とは小学生でもあるまいし、とマルコは呆れながら作業を覗き込む。は真剣な表情で筆を動かしていて、終わるまでは他に意識を向ける事は無理そうだった。描き込まれる手裏剣はなかなか完成度が高く、なかなか見ていて面白い。 「おいマルコ、ちょっといいか?」 「ん?あァ」 結局その日はサッチに呼ばれ、一日中付き合わされる羽目になった。そして次の日にはが遊びに行き、顔を合わせることもなかった。 最近、どうもおかしい。 微妙だが確実に、とマルコが一緒に過ごす時間が減っている。 そして更に数日が経過し、色々と限界に至り始めていたマルコがの部屋に行くと、そこには座布団に座ってのおやつを失敬しているサッチの姿があった。 「だったら、マグカップが出来たから持っていくってよ」 サッチがポッキーを食べながら、片手でカチカチと携帯メールを打ち込みながら聞いてもいないのに答える。度重なるすれ違いに、マルコの眉間に皺が寄った。 この所、やけにあの友達と会っている時間が多い気がする。それに図工の頼まれ事に妙に精を出している。 別に、があの少女にいい様に使われているのは今に始まったことではないが、最近どうも、作為のようなものを感じるのは気のせいか。どういうわけかと接触しようとすると、必ずと言っていいくらい邪魔が入るのだ。が友達と遊ぶ約束をしていたり、自分が誰かに呼ばれたり…。 「マルコ、行かなくていいのか?」 「…?」 メールを送信し終えたサッチがこちらを振り返る。その途端に気づいた。 そう、『誰か』の最たる存在は目の前のこの男だった。 「…お前、何か知ってるのかよい」 「さてな、おれは頼まれただけだぜ」 サッチのにやにや笑いに、マルコはぴんと閃く。こうしてサッチを使うのは、『あの子』の手口だったじゃないか。 「…お前ら、また同盟組みやがったのかよい」 「まァな」 苦虫を噛み潰した様なマルコの顔に、サッチは不敵な笑みを浮かべた。 「サッチ…」 「おおっとマルコ、お説教もいいがその前におれの役目を果たさせてくれよ」 サッチはそう言って、携帯電話をポケットにしまった。 ―――――――――― 「ちゃん、パフェ頼まなくてよかったの?」 「うん、今日はケーキ食べる」 とあるカフェにて、二人は楽しく時間を過ごしていた。 「あ、そうだロジェ!マグカップ出来たよ」 が傍らに置いていた鞄をごそごそ探り、中からカップを取り出した。それを見てコーヒーを口に運んでいたロジェが瞬く。 「早いね、流石ちゃん。それに…うん、いい出来!」 「えへへ」 出来上がったカップを受け取って眺め、にっこり笑って褒め言葉を贈るロジェには照れて頭を掻いた。今日までに仕上げてねと言われたので、マルコの誘いも断って頑張った甲斐がある。 その時、テーブルの上に置かれたロジェの携帯電話が震えゴトゴト音を立てた。 携帯を手に取り、届いたメールを見たロジェが顔を上げて窓を見る。そのまま外に向かって手を振るロジェにもつられて視線を移すと、そこにはマルコとサッチの姿。 「あれ、二人とも」 首を傾げるをよそに、二人が店に入ってくる。まっすぐ歩いてきて隣に座るマルコの剣呑な雰囲気に、はびくりとした。どういう訳か知らないが、何やら怒っている。 「よう」 ロジェの隣に座って片手を上げるサッチにつられ、も張りきって片手を上げた。 「ようサッチ!どしたのマルコ、サッチ」 「いや…」 横から覗き込んでくるから目を逸らし、マルコはロジェをじっと見る。彼の視線を、ロジェは楽しそうに笑いながら受け止めた。 「…さてロジェちゃん、何を企んでんのか聞かせてもらえるかい?」 「やー、マルコのおじちゃんが何言ってるか分からないなー」 二人のやりとりに、はますます首をひねる。てっきり買い食いしてるから怒ってるのかと思ったが、どうやら違うようだ。 「僕は何にも企んでなんかないよー」 「嘘つけよい、に課題でも何でもないマグカップの絵付けなんて頼んで」 「あれ、もーサッチのおじちゃんたらばらしちゃってしょうがないな」 「おいおい、バラしちゃだめだなんて言われてないぜ?」 「えー!?」 全く悪びれないロジェとサッチとは対照的に苦い表情のマルコ。彼らを交互に見て、は驚きの声を上げた。そして自分の努力が徒労であったと気づき、きゅっと眉を吊り上げて怒る。 「もう、ロジェ!!酷いよだますなんて、」 「ごめんねちゃん、はい、あーん」 「あーん」 だめだこりゃ。 ロジェがにこやかに差し出した、アイスと生クリームの乗ったスプーンに文句を忘れてパクッと食いつくに、マルコはがくりと肩を落とした。 もうこいつはだめだ、手遅れだ。マルコは絶望と共に悟る。 「何もかも…遅すぎたんだぜ…」 「黙れよい」 「あいとわっ!」 悟った様な腹の立つ顔をして余計な一言を喋るサッチに腹が立ち、テーブルの下で思いきり足を踏んでやった。 「ちゃん美味しい?」 「おいしひー、もっとちょうだーい」 「ふふふ、ちゃんたらしょうがないなー、じゃぁはい、あーん」 「あーん、もふっ」 男連中をほったらかしでいちゃつく二人に、マルコは更なる脱力感に襲われがっくりとテーブルに沈む。何なのだろうか、自分のこの場違い感というか、居辛さは。 ふと視線を上げると、こちらに視線を向けていたロジェと目が合った。 ふふん。 視線が合った瞬間のその、唇を釣り上げ小馬鹿にした様な笑い方に勝利者の余裕を見て、マルコの額にぴしりと青筋が浮かんだ。くるりと視線を移して隣のを見るが、当の彼女はそんな視線のやり取り等気づきもせず、口の中に広がる甘味に表情を蕩かせている。 後で覚えてろい。 そう心に誓いながら、マルコは仲睦まじい二人をじりじりしながら見つめる。二人でよく学校帰りに買い食いしているのは知っていたが、よもやここまでが餌付けされているとは思っていなかった。付き合う相手が昔から知るロジェであるからと信用し、油断していた。 しかし考えてみれば、この子こそが最も油断ならない存在だったじゃないか。 ロジェという少女は昔から、の扱いがそれはもう上手だった。まだ年端もいかない幼児の頃からは何の疑問も抱き続けることも無く、コロコロとこの少女の手のひらの上で転がされてきた。他ならぬ自分も、それを傍で見てきたのでよく知っている。 ある時はおやつにつられて酒を飲まされ、一日寝込んだ。 ある時はかくれんぼで、玄関の前でポーズをとり信楽焼のタヌキのふりをしていた彼女の前で、どこを探してもロジェがいないと泣いていた。 またある時は「リーゼントの中にはクッキーが隠されている」等の適当すぎる口先三寸で騙され、主にサッチやマルコが痛い目を見た。 騙されて池に潜らされ、溺れかけた事すらある。 だが、ではなくこうやって自分を標的にしてきたのは初めてだ。マルコは疲れた溜め息を一つ吐くと、胡乱気な瞳で楽しげなロジェを見つめる。 「…おいロジェちゃん、何だってこんな事するんだよい?」 「んん?……んー…」 にパフェのさくらんぼをちらつかせていたロジェは問いを受けると、視線を宙に彷徨わせて彼女にしては珍しく口籠った。そんなロジェの態度をマルコが不審に思った瞬間、まるでその思考を察知したかの様にロジェの目がマルコに向き、整った顔がにやりと邪悪な笑みを形作った。 「ちゃんを取られて、そんな風に惨めったらしくうずくまってるマルコのおじちゃんが見たかったんだよ」 「ドSだ!!ドSがいるぞ!!」 ロジェの発言に、テーブルのフライドポテトを勝手につまんでいたサッチがわざとらしく慄く。 「それに…ねぇ?マルコのおじちゃん?僕の手札がそれだけだと思ってもらっちゃ困るよ」 ふふんとまた嘲笑を浮かべると、ロジェはおもむろに鞄に手を入れすっと一冊の大学ノートを取り出した。表紙にはヒヨコのイラストが描いてある。そのノートを見た瞬間、貰ったさくらんぼを食べていたがあっと声を上げた。 「はいちゃん、今回のノートだよ」 「わーい!ありがとロジェ、これでばっちり!」 差し出されたノートをは喜んで受け取る。 「そりゃ何だよい」 「あのねマルコ、ロジェは英語のノート学校で売ってるの」 「そうそう、ちょっとした学生のお小遣い稼ぎ」 ねー、と二人は揃って笑顔を見せるが、へぇそう、等とさらりと聞き流せる話題ではなかった。 「…そりゃ、学校じゃ禁止されてるんじゃないのかい?」 「その辺りは大丈夫、信用の置けない客は取らない様にしてるからね」 ロジェはばちんとウィンクするが、その微笑みが非常に胡散臭く見えるのは果たして気のせいだろうか。半眼で見つめてくる大人二人の視線等意に介さず、ロジェはふふんと自慢げに胸を張った。 「一ページにつきワンコイン。一冊丸ごとで五千円の、お買い得なお値段だよ」 「一冊全部で!?い、一気に高くなるんだな…」 「二ページで千円だよ?一冊丸ごとはすごーくお買い得だと思うけど?」 「ワンコインって500円かよ!?」 あまりといえばあまりの暴利に、サッチが素っ頓狂な声を上げる。 「に飯おごってやったり…妙に羽振りがいいと思ってたが…」 マルコは胸を張るロジェと、真剣にノートを読み耽るとを交互に見る。『ちょっとした学生のお小遣い稼ぎ』は、さしものヤクザも驚きの阿漕な商売だった。 「しかしすげーな…今どきの学生ってのは、こんなノートに金出すのかよ」 「ちょっとサッチ、がまだ見てるんだよ!」 後ろからひょいとノートを覗き込み、の抗議にも構わずページをぱらぱら送りながらサッチは唸る。今の若者の金の使い方は理解できない、とマルコと顔を見合わせた。 「あぁ違う違う、それはちゃん用のノートだよ。取引用はこっち」 ロジェはそう言って鞄から別のノートを取り出した。ノートを受け取って中身を見てみると、斜体字の難解な英文がびっしりと書き込まれている。小鳥マークのノートに比べると、余白も少なく日本語の和訳もほとんど見当たらなかった。時折赤ペンで二重丸の付いている英文があったりするが、肝心の内容が全然分からずに大人二人の頬に一筋の汗が流れる。 「…、分かるか?」 「え、えと、“I”は分かるよ!」 「そういうのは分かるって言わねェんだよ」 同じくノートを覗き込んで石化していたの発言に、サッチは額を抑えながら小さい頭をぺしりとはたく。両方のノートをしげしげ見比べて、マルコが顔を上げた。 「…用にわざわざ別のノート作ってくれてるのかい?」 「しょうがないよ、だって僕の学校とちゃんとこの学校、英語の教科書違うんだもの」 彼の問いにロジェは肩を竦める。違うのは教科書云々ではなく学力だと思うのだが、とマルコは言いかけてやめた。 「まあ他の教科はともかく、英語に関してなら僕は学年トップだからね。僕のノートはそれなりに売れるのさ」 そういえば、ロジェは英文学部だと聞いた覚えがある。 彼女曰く『取引用』のノートは、彼女と近いレベルの英語力を持って初めて活用される代物らしい。成程それならには無理だ、とマルコはばっさり切り捨てる。幼い頃から手を焼いてきたこの少女は残念な事に勉強が苦手だった。 「ちゃんもさ、今度から部活動の助っ人お金取ればいいんだよ」 「んー、でも計算むずかしい。ロジェやって」 「学校違うから難しいなぁ」 顔を突き合わせてにこにこ話している二人をちらりと見て、マルコは思案する。 テストが近いのは事実だし、ロジェは良き勉強相手だ。無理やり引き離して今度のテストの点が悪くなっても困るので、今回は引いておく事に決めてがたりと席を立つ。 「じゃあ帰るよい」 「帰るの?じゃまた明日ねマルコ!」 がにこにこと手を振る。こいつだけがここでのやり取りの真実を何も分かっていないから、少しかわいそうになった。 帰るのは別に、仲の良い二人に敗北感を覚えからな訳ではない。そんな事はない。僕の勝ち、と言わないばかりににやにやしているロジェの顔等目に入らない。 「じゃ、あんまり遅くならない様にしろよい」 「うん、暗くなる前には帰るよ。6時までにお家に帰ってメール入れないと、パパが心配して電話掛けてきちゃうから」 「6時門限かよい、あの人にしちゃ遅くに設定してるな」 「相変わらずうぜェなあの父親は……」 マルコ同様、ロジェの父親シドニアをよく知るサッチはそう言って重い溜め息を吐いた。 一人店から出たマルコは一息つく。そろそろ日が落ちてくる頃で、存外長い間店にいたのだと気づいた。 サッチは店に残って何か食べて帰るらしい。逃げたな、と思ったがもう今更彼に対して怒りは湧いてこなかった。 街に出ても何もすることもないのでそのまま家に帰ると、まるでそのタイミングを読んでいたかのように携帯がメールの着信を告げ、画面を開くとそこには彼女からのメッセージが一件。 『ちゃん取られてどんな気分?マルコのおじちゃんゴメンNE☆』 「……やってくれるよい」 煽りメールにイラッとしたが、八つ当たる相手はいない。 とりあえずが帰ったらお仕置きしてやろうと心に決めた。 ―――――――――― 「ちゃ…あれれ」 自室のドアを開けたロジェは、テーブルに突っ伏して眠るを見て目を丸くした。 「もう、もうすぐテストだから夜中まで頑張るぞー!なんて言ってた癖に」 口を尖らせてぶつぶつ言いながらも、ブランケットを肩まで掛けてやる。はノートに涎を垂らしながら実に幸せそうに寝ていた。時計を見るともう23時になろうかという所で、にしては少し寝入るのが早い。どうやら疲れていたらしい。 「ちゃんたら、えい」 「すぴー、すぴー」 ほっぺたをぶにぶに引っ張り、起きない事を確認するとロジェはにまっと微笑み、ペンスタンドから油性ペンを取り出しての顔にペンの先を滑らせていく。やがてそれが終わると、ロジェは笑みを押し殺しながらの顔を写メに撮った。 「本当はね、僕はちゃんにもちょっと怒ってるんだよ。だからこれぐらいいいよね」 あれはいつだったか。その時にしていた話はもう忘れてしまったけれど、その話だけは今でもはっきり覚えている。 とマルコが恋人関係にあることは知っていたから、ちょっとアドバイスを貰うつもりの軽い気持ちで相談を投げかけた時だった。恋愛関係どころか、二人が既に肉体関係にまで至っていると聞かされたのは。 自分ともあろうものが紅茶を噴き出したのは、きっとあれが最初で最後に違いない。 その時は何とか取り繕ったのだが、昔から知っていた大事な友達が急に知らない存在になってしまった様で、何だかショックだった。それ程に、ロジェの中では『そういうこと』から遠い存在だったのだ。 そんな風に実にさらりと、何でもない事の様に打ち明けられてからだった。とマルコとサッチとロジェという昔から親しんできた小さな輪の中から、まるで自分ひとり弾き出されてしまった様なそんな思いが、ずっとロジェの心の中に澱の様に溜まっていたのは。 つまらないような、寂しい様な。自分の目の前で自分の知らないことを話されているかのような、疎外感とでもいうのか。 やサッチを巻き込んで行う遊びに大した理由等元々ありはしなかったのだし、これからも別になくても構わないと思っている。けれども、あの時のマルコの問いにいつもの通りに『面白かったからだもん』と素直に返せなかったのは、そんな自分でもよく分からない、鬱屈した思いがあったからだろう。 ロジェ自身、自分のこの拗ねた思いがに向いているのか、マルコに向いているのかすらよく分かっていないのだから。 とりあえずは明日、保護者からお仕置きされればいい。それで喧嘩にでもなればまた面白くなるかもしれないが、結局あの二人はいつも一緒なのだから、こんなちょっかいなんて意味のないもの。喧嘩してもすぐ仲直りするだろう。 今は、ただ。 「独り者の僻み位、甘んじて受けてもらわないとね」 複雑な思いを、そんな単純な一言に押し込めてロジェは悪魔の如くにっこり笑うと、テーブルの上に開かれたままのテキストをぱたんと閉じた。 ―――――――――― 「二人ともおはよー!」 「おはようちゃん」 「あーおはふもぐっ!!?」 翌朝、元気よくリビングに現れたの顔を見て、家長であるシドニアは口に含んだトーストを詰まらせて咽込んだ。 「ど、どしたのシドニアおじさん!?」 急に腹を押さえて肩を震わせるシドニアをぽかんとした顔で見つめるに、ほかほかと湯気を立てる手裏剣模様のマグカップを差し出しながらロジェは極上の笑みを浮かべる。 「はいちゃん、朝のコーヒー飲んでゆっくりしていってね」 コーヒーブレイク (おい、お前顔にヒゲ描かれてるぞ) (うぇ?…あー!ほんとだ!ビスタみたいなヒゲが生えてる!) (ロジェたん…女の子にああいうイタズラは…) (いいじゃない、だって面白かったんだもん) ―――――――――― あとがき 散々待たせた結果がこれで申し訳ないです…。コラボなのに出番薄いコトリちゃんごめんなさい。 ロジェはコトリちゃん大好きですよ!!(強調)ただちょっと仲睦まじい二人に軽く妬いてる感じで、面白くないのでちょっかいかけて憂さを晴らしてます。わかりづらいよ! しかし久々に書くと、大人のロジェかわいげがない。萌えポイントはミニスカニーソだけど、描写の余地がなかったですすいませんorz 煽りメールはわざと。性格悪いです。 ロジェたん可愛すぎて、うちの子が申し訳なくてorz いつか愛想尽かされないか心配です。 □ |