「それは可哀想に《

(自業自得だ)



その言葉を呑み込んで、恣意的に口角を上げ目じりを下げ眉根を寄せ、困ったような笑顔を作る。
目の前の幼い菩怪は、己がそうすることでわっと泣き出して酷いんです、と宣った。



誰も助けてくれなかった。

助けてと叫んだのに。

頼んだのに、懇願したのに、泣き喚いたのに。

誰も彼女を助けてくれなかった。



それがどうした。
喉元まで出かかった言葉をまたもや呑み込んで、私は可哀想に、酷い連中だな、と慰めがてら肩をたたいてやる。
そうすると今度は憐憫を求めた声で怨嗟を口ずさんだ。



どうして助けてくれなかったんだ。

酷い酷い。

同じ仲間だったのに、信じていたのに。

所詮北区の腑抜けた奴らか。

恨んでやる呪ってやる怨んでやる。

愛しい彼女を見殺しにした奴らを、どうして許してくれようか。



だったらすぐにでも実行に移せばよいものを。
今こうして嘆いている暇があったら、少しでも憎い仇を殺すべきだ。
幼い菩怪は泣きながら怒ったり悲しんだりばかりで、ちっとも行動に移そうとしない。
世の上条理を嘆くばかりで自分の愚かさを顧みない自己中心的な態度は非常に遺憾だが、今は来るべき日に備えて一人でも多く、どんなに瑣末な菩怪でも仲間にしておくにこしたことはない。
己の中の理性が苛立つ己にそう冷静に語りかけてくることで、表面上だけは穏やかな笑みを保つことができた。



「氷髯、さぞ辛かろう。ならば復讐を糧に、怨嗟を根源に、呪詛を唱え、己をを鍛えにっくき北区の連中に復讐するのだ《



そら、と促してやると、幼い菩怪は未だ興奮さめ非ずといった様子だったか、それでも己の言うことに従い別の部屋に連れて行かれた。
私は部屋の左側にあるソファにどかりと腰かけると、安物のソファは思いのほか硬く腰を少し打ってしまった。
けれど微々たる痛みがより己を刺激し、怒りを和らげてくれたので良しとしよう。
はぁ、とため息をつくのと同時に、身体の中からふつふつと湧き上がる怒気も少しだけ吐き出す。

己は子供が嫌いなのだと知った。
今まで知る機会がなく、なんとなく嫌いなのだろうな、と思っていたが予想以上だった。
想像以上に腹立たしかった。
自分の事を棚に上げて周りが悪い、自分は悪くない、と自己の正当化ばかりをする。
どれだけ拳を握り締めたか。爪が食い込んで今でも赤く痕になっている。



周りが助けてくれなかったせいだ。

(自分のせいだろう)



他人に助けを求める時点で間違っている。
他人は所詮他人でしかないのだから、どれだけ望もうと期待していることをしてくれる確率は低い。
自分で助ければよかったのだ。
自分で縄を持ってくるなり飛びこむなりして、少女を助ければよかったのだ。
それが最善であり最良であり、唯一の選択肢。
自分にできないことを他人に求めることがそもそもの間違いだ。
自分はだれかの助けが来るまで待っていただけじゃないか。
愛しい女の為に窯に飛び込むこともなく、ただ助けてと叫ぶだけ。
自分は何もしていない。
何もしていないのに救われようなどと、おこがましい話だ。



私はあいつが嫌いだ。



だから。





「お前はもう上要だ《





奴が裏切った時、躊躇うことなく斬れた。
一緒にいた時間は長かったけれど、情は一切わかなかったから簡単だった。
むしろ、一緒にいた時間の分募る苛立ちのほうが勝ったから嬉しかった。
腕を斬り落とした時の爽快感は、長年胸にたまっていた鬱憤を晴らしたようだ。
いや、実際晴れたのか。
両足を断ち斬って、残しておいた腕から指を一本ずつ捥いでやろう。
悲鳴を上げて、泣き叫べ。命乞いをし、自分を貶めろ。
そうすることが似あいの愚か者だろう。



さぁ、泣き叫べ。

愚かだった己の愚を知れ、一人では何も出来ない己を呪え。

私が介錯をしてやろう。





本当はその後の紅牛の場面まで書こうと思ったのですが、それだと黒兎さまが報われないのでやめました。
アベルはさぁ、他人に依存しすぎね。常に他人からの刺激による意思決定はどうかと思うよ。
2009/09/16
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