汕子は、目の前を駆けていく子供を、幸福な気持ちで追いかけていた。
本気で追いかけたら、子供を捕まえることは容易だろう。
けれども、汕子はあえて一定の距離を保って子供を追いかけた。
視界に入る範囲で、尚且つ近すぎず遠すぎず。
子供の靡く鋼の鬣を目印に、楽しそうな笑い声が聴こえる範囲に。

追いかける遊びは、楽しい。
子供が楽しそうに笑うから、汕子まで温かくなる。
幸福で、嬉しくて、喜ばしくて、世界の全ての吉兆がここにある気さえする。
否、汕子の世界の全ては子供なのだから、全ての幸福はここにあるのだ。

汕子は追いかける子供を見失うことなく、少し後ろを走る。
決して見失う事のない金の燐光。
愛しくて堪らない、汕子の全て。
これからずっと、生を共にする存在。



「泰麒ならあっちだよ」

「あたしらを転ばす勢いでねえ」



女仙は汕子に子供の行方を告げたが、汕子は子供がどこにいるか承知している。
女仙の輪の中に入り、その中央にある洗濯物の前まで行く。
汕子は目の前の布の山を持ち上げた。
一枚、また一枚と持ち上げるごとに強くなる金色。
あぁ、幸せが顔を出す。



「見つかっちゃった」



残念そうで、だけど零れ溢れる満面の笑み。
汕子も笑って、尚も息を弾ませる子供の頭をなでた。
子供は汕子の主で頭を撫でるなどという軽々しい行為は本来なら出来ないのだが、主であると同時に汕子は子供の乳母やでもある。
だから、どうしても主という概念よりもいとおしんで慈しむことが先になってしまう。

愛しい、愛しい、汕子の全て。

汕子の豹の前足に凭れかかってくる子供を抱きしめて、背を撫でてやる。
全身が温かい。
汕子も、子供も。

子供を守るためなら、汕子は命を投げ出すのも厭わない。
この温度は、幸せは、誰にも邪魔させない。
子供に安寧を、未来に平和を、世界に希望を。



(ずっとお傍に居りますから)

守ります、お守りいたします。
汕子がついておりますから。



汕子は子供を守り続けた。
大切に、大切に、何よりも大切に。

全てのものを置き去りにしても。





黄昏の岸〜魔性の子くらいの汕子。の、つもり。
2009/06/03
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