ぴーひょろろと鳶が穏やかに鳴いていた。
緑の深い森にほど近いところ、大きな城がある。
その城の城壁ぎりぎりに位置する場所に、壁はひび割れて隙間風が吹き込むような粗末な作りのあばら家がかろうじて建っていた。
奥州に仕える忍の休憩所として与えられているそこは、座布団や畳なんて上等なものは一切ない。
雨風をしのぐ、ただそれだけを目的としたような場所に、大人と子供が面と向かいあっていた。
大人の方はどこか粛々としていて、子供も一応はきちんとおとなしく正座している。




「あい、じょーし」

「上司っつーのはヤメロ」

「あい、じょーし」


ごちん


「おぁー!? じょーしをじょーしってよんでなにがわるい!」

「俺の命令に従わんお前が悪い!!」

「おーぼーだ、おーぼー!」

「もう一回くらいたいか?」


子供、は舌をべーっと出して、一目散に逃げ出した。
足だけは、奥州忍軍の中でも追随を許さない早さだった。
城勤めだというのに未だ頭の中が子供なに忍軍長はため息をつき、子供の後ろ姿を見送った。
常に全力な子供相手に、大人げなく全力を尽くすのも面倒だ。
戻って来た時にまた折檻してやればそれでいい。
が、逃亡を許してしまっただけ調子に乗るとため息をついた。

は城に仕える忍軍の一人である。
正確な年齢は本人も知らないだろうが、数えで十にもなっていない子供だ。
幼さながらも、城主のお眼鏡にかない城勤に召し上げられた経歴を持つ。
それほど才溢れ将来有望な子供だというのに、いかんせん糞餓鬼だ。
おつむの方が仕事についてきていない。
忍務の時は、それこそ大人と肩を並べても遜色がないほどにしっかりと指令やら命令やら卒なくこなすのに、日常ではこれだ。
子供らしさを如何なく発揮し、自由奔放好き勝手し放題。
先程の態度もそうだが、おとなしさというものが欠片もない。
ついでに、歳上に対する態度もなっていない。
いっそのこと拷問でもしたらおとなしくなるかと思い実行したが、残念なことになんら変わりはなかった。
なまじ忍の修行を積んで拷問に慣れていることが裏目に出た。
爪を剥いでも水を飲ませてもけろっとしていて、これは本当に腹の立つガキだ。

それでも大人から好かれている不思議だ。
どこまでなら許されるかどこからが許されないかを、本人もわかってやっているのだろう。
気づけば厨房からお八つを貰っていたり、馬番と一緒に馬と戯れていたりするから、の人気には恐れ入る。
子供という点を差し置いても、明るく社交的な性格が好かれているのだろう。
流石に城主や兵たちとは交わっていないだろうが、それに関しては不安がぬぐえない。
気軽に話しかけてうっかり斬り殺されてしまったのでは間抜けすぎる。
忍の地位は低い。
兵の前で平伏しなくとも斬られはしないが、城主の前で粗相をしようものなら斬り殺されても仕方ない。
子供だからといって、許されないこともあるのだ。

なんだかんだ言っても、忍軍誰もがを可愛がっている。
あれはあれで人の気持ちに敏感な子だから、そう滅多な事をしないとはわかっている。
それでも心配なのは、過保護なのだろうか。


「親の心子知らず、ったく、忍になって親の心を知るたぁな」






 
2010/09/15