「いひゃい」 「我慢しろ、馬鹿」 はあばら家の煎餅布団の上で、珍しくおとなしくしていた。 当然だ、全身刺し傷切り傷だらけではいくら遊びたい盛りのでも痛くて動けまい。 先の間者事件で、一番に相手と対峙したのがだった。 応戦し、善戦したものの、刺し傷多数の怪我を負った。 鎖帷子を着ていたから致命傷といえるものはないが、かなり深く斬られている箇所が数か所。 内臓がやられていないだけマシだが、深い傷はしばらく痛むだろう。 長はため息をつきながら、の看病に当たる。 「くそー、あとちょっとでかてた!もうちょっとでとれたのに!」 「あの猿飛佐助相手によくやったが、お前もうちっと後先考えろ」 「こんどきたら、がくびとる!おさにはゆずらないかんねっ!!」 「お前…今度があったらお前のが殺されるっつーの」 「おさはあんなちんちくりんよりのがよわいって!? よりあしおそいくせに!きづかなかったくせに!!」 傷口を乱暴に縫うと、ぎにゃー、と泣き声がしたが黙殺。 確かに今回が最初に侵入者を発見し、自分たちが後手に回ったのは事実だ。 だが、獲物を持ったままの相手に突進し匕首で腹を刺したはいいがなにもそのまま抑え込むことはないだろう。 は子供で小さいから、そうしないと逃げられてしまうと思ったのだろう。 確かにそれが小さな琴里に出来る唯一の方法だが、その結果がこれだ。 猿飛佐助が腹にくっついたままのを切りつけ、無様に怪我を負っている。 なんとかの合図を聞きつけた自分他数名がその場に駆け付けた時は既には血まみれだった。 血まみれでも、ちゃんと猿飛佐助を束縛していた。 忍としては最善の判断だが、子供が実行するとはまったく末恐ろしい子だ、本当に。 「さいしょだって、もうちょっとでくびはねれたのに!」 「しっかし、何も俺らが行くまで猿飛佐助にくっついて動きを封じるこたぁねぇだろ」 「だって、そうしないとあいつにげてたよ!おさたちおそいしぃ、って、みぎゃー!!!イタイイタイいたい!!」 今回はの功績が大きい。 最初に不法侵入者に気付いたのはだし、相手に傷を負わせ他の者に知らせたのもだ。 よくやった、と褒めるべきところなのだろうが、褒めたら褒めたで調子に乗るのは目に見えている。 猿飛は捕らえることなく逃がした。 甲斐と奥州は現在冷戦状態で、余計な火種となるのを恐れたからだ。 偵察の忍ならお互いもぐりこませているし、これを恩として売りつけるのが奥州城主の意向だろう。 だから、あえて逃がした。 怪我をしたには申し訳ないが、無傷で逃がしても奥州の威厳に関わるので仕方のない犠牲だった。 まぁ、みんなが見つけていても無視していた者をわざわざ見つけたの所為だと言ってもいいのだけれど。 「まぁ、お前にしてはよくやった方じゃねぇの?」 「、がんばった!えらい?えらい!?」 「これでも食って、さっさと養生しろ。またこき使ってやる」 「ずんだもちだぁー!!わーい、おさふとっぱら!すきっ!」 でも結局、甘やかしてしまうのはどうしたってやめられない。 ← □ 2010/09/15 |