殺して殺して殺して、海へ逃げる者は追わない。 周囲に陸はおろか船の航路もないので、溺れ死ぬのが落ちだ。 あるいは停泊中の他の海軍に殺されるか、海王類の餌になるか。どちらにしろ未来はない。 そうしてあらかた戦力を殺げば、掃討隊がやってくる。 新米の海兵が殺人を経験しにやってくるのだ。 危険度は限りなく低く、殺しの練習にはうってつけだ。 いざという時に初めて人を殺すのと、予め殺しを経験しているのとではその後の生存率が段違いに変わってくる。 また、ここで人を殺せないような甘っちょろい輩の選別にもなる。 「た、助けてくれっ!!」 「ひッ」 助けを乞われると、誰だって最初は躊躇う。 しかし、ここで情けをかけるのは相手がこれまで殺してきた善良な市民の命を踏みにじる行為だ。 怯え怯む新米海兵の肩を持ち、はそっと囁く。 「反撃されるのが怖いか?大丈夫だ、わたしが手足の腱を切ってやろう」 そら、と新米の目の前で四肢の腱を切断する。 当然肉が切れ血があふれる。 海賊の悲鳴に、周囲の血の匂いに、目の前の狂気に新米が涙を流す。 「殺しにくなら理由をやろう。こいつは村を襲い、男を殺し、女を嬲り、子供を売り、全てを略奪し、焼き払った男だ。こいつはもう何十人と殺している。聞こえないか?こいつを取り巻く怨嗟が。殺せと囁く村人の声が。聞きたくないか?ありがとうの声が。見たくないか?こいつの死を喜ぶ市民の笑顔を。こいつを逃せば、また殺すぞ。また悲劇が、惨劇が繰り返される。貴君はまた善良な市民を見殺しにするのか?貴君がこいつを殺さぬなら、こいつが後に殺したものは貴君が殺したことになるぞ。貴君は罪なき市民を殺すのか?貴君は市民を守るために海兵になったのではないか?殺せ、そして未来を守れ。いまこいつを殺せるのは貴君しかいない。貴君が殺し、守るのだ!!」 刀を持つ手がぶるぶると震えている。 手だけではなく、身体全体が震えている。 汗の量が尋常ではない。 涙も止まらない。 何かをぶつぶつとつぶやいている。 「助けてくれ、後生だっ!」 「やれ、殺せ!!」 「うわぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!!」 肩で息する新米に、は敬礼する。 「ありがとう、貴君のおかげで世界が平和になった」 ← □ → 2018/08/30 |