「コビー。海賊はな、悪なんだ。それはわかるな?」 「はい、海賊は人を殺します」 「うん。あぁいう粗暴者がのさばっていたら、か弱い一般人が自由に行動できなくなる」 「でもっ、ですが!冒険だけを目的とする平和主義者の海賊団がいることも事実です!」 「それでも、海賊と名乗るだけで人々は怯えるんだ。海賊というだけで、全ての暴力が許されると思っている」 「詭弁です。海賊も人間です。そんな人ばかりではありません」 「過半数を占めているのは確かだ。海賊を名乗るからにはそれ相応の覚悟がいる。なんたって、海賊と名乗るだけで海軍から追われる運命を背負うのだから」 「だからといって、こんな一方的な虐殺が許される理由になりますか、少将!!」 とコビーの眼下では、戦闘と呼ぶのもおこがましい一方的な鏖殺が繰り広げられていた。 一切の生を許さず、ただひたすら命を狩り取る機械的とも取れる作業。 悲鳴と怒号、許しを請い泣き叫ぶ海賊たちを、哀れと思って何が悪い。 「海賊と名乗ったからには、敵だ。敵は殺す」 「こんなのあんまりだ!なんのための命ですか!!」 「その命を賭して、海賊になった。死ぬ覚悟は出来ているだろう」 とても死ぬ覚悟が出来ているとは思えない。 だって、あんなにも逃げ惑っている。殺さないでと泣いている。助けてと懇願している。 どうして、死ぬ気もない人たちを殺さねばならないのか。 投獄することの何がいけないのか、何の為の刑務所だ、裁判だ。 「コビー、私たちは海軍だ。正義を背負い、ひいては民衆の命を守るためにある」 「海賊だって、命は平等です…!」 「くどい。守るべき命を違えるな。今一人の海賊を逃がして十の民衆の命が失われたらどうする」 「捕らえることだって出来る筈だ!なぜ、そこまで殺しにこだわるんですか!!」 死刑とは程遠い、人を殺していないような海賊だって今殺されている中に混じっている。 その人たちは、自らの罪を認め刑務所に入り、更生する機会を与えられたっていいはずだ。 いや、与えられるべきだ、人間は変わる事が出来る。 その機会を奪ってしまうなんて、人間の権利はどこにいった。 「私は、殺せと命令された」 「殺せと言われたら殺すんですか、そんなに命令が大事ですか!!」 「正義の命令は絶対だ。なぜならば、正義はいつだって守るためにある」 「命令に責任を転嫁しているだけだ!殺す理由にはならない」 コビーが涙ながらに訴えると、は睨むようにコビーを見た。 上官であるは怖い。足がすくむ。 けど、コビーはなにも間違っていないと自分を信じている。 人一人の命というのはこんな簡単に奪われていいものじゃない、もっと尊いものだ。 そもそも、奪う奪われるという表現自体間違っている。命はその人の全てだ。 自分の思う事を信じて何が悪い。自分が信じて貫き通せば、思いはきっと伝わる。 「コビー、絵空事は頭の中だけにしておけ」 「ここは海軍で、わたしは鬼だ」 「殺しを厭うのなら、事務なり給仕なり好きな所へ行け」 権力の前に、人間の思いが儚いものだという事を初めて知った。 ← □ → 2011/04/17 |