うさぎ、うさぎ、何見て跳ねる



「ぬし様よ。海賊とはかくも暇な稼業なのかね?」

「歌って騒いで飲んで、愉快だろ?」

「自堕落な」

「それをお前が言うか」



シャンクスはあきれ果てた目でを見るが、もしれっと酒を飲んでいる。
はシャンクスが咎めればすぐにでもそれに従うが、シャンクスが何も言わなければ好き勝手する。そういう存在になっていた。
他の船員はまだ距離感を図りかねているようだが、は気にした様子もないし、シャンクスも何も言わない。
はあくまでシャンクスの飼い犬となっただけで、赤髪海賊団のクルーとなったわけではない。
そのような事情と自身の気性も相まって、若干の溝ができているが、それは時間が解決するだろう。

は意外な事に、身の回りの事なに一つ出来なかった。
料理にしろ掃除にしろ洗濯にしろ、出来ない。
そのくせ人にはあれはどうだこれはまずくないかと文句だけは人一倍だ。
うすうす感づいてはいたが、は以前かなりの立場にいたのではないだろうか。
誰かに命じる事に慣れている癖に、誰かに命じられるのも慣れている。
相反するその性質に、ますますは何者かという謎が深まる。



、お前は何者なんだ」

「ふむ、難題だな。我は我以外答えを知らぬ。ぬし様は何を聞きたいのか」

「どこの誰だってことか」

「我は隠れ里で師をしていたな。名前は。他には?」

「そうだな。ただもんじゃねェだろ。何してた?」

「忍をしていたが、現役ではないな」

「あれか!手裏剣とか消えたりする奴か!!!」



ジェスチャーで手のひらを横に合わせ、シュッシュと手裏剣を投げる動作を行うシャンクスに、は頷く。



「平たく言えばそう言う事だ」

「現役じゃねぇっつーこたぁ、なんで引退したんだ?」

「なに、単に老いただけさ。いつの時代も老いれば退き、若者に先を委ねる。それだけだ」



つまり、昔は忍びとして働いていたが歳をとったので引退し、師として次世代を育てていた、ということになるのだろう。
シャンクスもあまり忍に詳しいわけではないが、戦乱に身を置くものとしては変わりはないだろう。
殺し殺されが日常と化した世で年老い、引退したという事実にまず驚いた。
つまり、年老いても尚殺されず生き延びたということだ。
引退後の生活の中でも危険はあっただろうに、五体満足で過ごしていることに感嘆する。
余程の強者か、運があったか。はたまた両方なのか。
人生の先輩としては尊敬しよう。
その生きざまはマネしたくもないが。
シャンクスが俺にも寄こせと酒の入った瓶を煽る。



「そんなお前が、どうして俺ンとこに来たのかね」

「それは我が聞きたいな。だがまぁいいさ。ぬし様はよい主だからの」

「お前にも好みがあるのか」



周囲など、それこそ自分が仕える者にさえ興味のなさそうなの意外な一言に、思わずシャンクスが聞き返した。
はにやりと笑い、大仰に手を広げる。



「こうして昼間から酒を飲ませてくれる主はそうそういない、喜べぬし様。我はぬし様を最高の主と認めてやろう!」



仕える側のくせに偉そうで、これが本当に自分の下僕なのかと思うと甚だ疑問だが、それでも、この天上天下唯我独尊男が自分を主だと仰ぐのならば、そうなのだろう。



「ようこそ、レッドフォース号へ。俺が船長のシャンクスだ」




2011/03/21
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