「武器庫の整理も、ファミリーの人員移動も、全部終わったかな?」

「はい。掃除と徴収はいかがいたしましょう」

「掃除は・・・リスト作るからテキトーにやっといて。徴収は由紗に任すよ」

「かしこまりました」



は手の上でくるくる回していた万年筆で紙に人名を書き出し、由紗に渡した。
由紗は受け取ったリストに目を通す。



「あー、早くジャポーネに行きたいなー・・」

「お仕事をお済ませになられれば、お好きになさってください」



リストに一通り目を通し終えた由紗はに一礼し、部屋を出て行った。
広くも狭くもない部屋には一人。
ぼんやりと口をあけ、頬杖をつく。
ジャポーネは楽しかったなぁ、なんて、もうおぼろげにしか思い出せない記憶を思い起こしていた。
そこであてどなく、は声を出す。



「ねぇ、旅行っていいと思わない?」

「あのねー、今とっても暇なんだぁ」



「聞いてるんでしょ、アッサッスィーノ」



答えてよ、とが言えども、返答はない。
自分の問いに返事がないことに、はむっと口を尖らせる。
そしてが、きゅっ、と手を引くと、どこからか暗殺者が現れた。
暗殺者は突然のことに一瞬と惑ったものの、流石はプロ。
すぐに現状を把握し、との距離を縮め、の首筋にナイフが宛がう。



「やっぱり隠れてた。ねぇ、どこのファミリーから来たの?ボスの名前は?」

「はっ、そんなこと言うと思ったのか!死んでもらうぜ!!」

「そっか」



ふつり とのの首の薄皮が切れ、血が首筋を伝った。
しかし、それ以上傷が深くなることはなかった。
暗殺者の動きがぴたりと止まる。
の人を操るという意味を持った異名、バンボラ、という名が暗殺者の脳裏を過ぎった。
暗殺者が視線だけでを見ると、にこやかに笑っている。



「もう一度聞くね」

「この、ボクが、質問してるの」

「答えてくれるよね?」



の尋常ならざる様子に、暗殺者は全てを悟った。
何をしても、勝てない。
到底及ばない。
力量が、規格が、格が、違う。

がくり と体の力が抜けた。
けれども床に膝をつくことがなく、ちゃんと立っていられたのは、に全て支配されてしまったからだろうか。
もう、思考さえもうまく回らない。
バンボラ、
暗殺者は、その全てをに絡めとられた。



「ぁ、う、ペタリーノファミリー、幹部補佐のマウロ」

「ペタリーノのマウロね。うん、わかった」



は笑顔だけれど、その顔はどこか狂気じみている。
けれど、暗殺者はもうなにも感じることはない。
もう何一つ、自分の感情さえも、うまく動かすことが出来なかった。



くい とが指を動かすと、暗殺者の身体が動く。
くいくい と操り人形を動かすように、は指を動かした。



暗殺者は無表情で窓を開ける。
高さはおおよそ10m。
下から吹き上げてくるビル風が、室内に吹き込む。

は尚も指を動かし続ける。
暗殺者の身体は半分窓の外へ乗り出していた。
表情は、とっくの昔に消えている。



「アッリヴェデルチ、アッサッスィーノ。もうちょっと話したかったよ」



別れの挨拶と共に、ぱっ とは手の力を抜いた。
窓から乗り出していた暗殺者の体が、重力に従い10m の高さから落ちる。
今度はが自らの手で、窓を閉める。
窓の外で、小さく鈍い音がして、人々の叫びが聞こえ始めた。



様、いかがなさいました?」

「べーつにぃ。ただ人が空を飛んだだけ」

「左様ですか」

「あ、ペタリーノファミリーのマウロって奴。掃除しといて」

「わかりました」

「オツカレー」

「お疲れ様です」








Assassino アッサッスィーノ 暗殺者
2006 03 21

  

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