お子さま行進曲



モビー・ディック号は緩やかな風が吹く快晴の中、のんびりと航海を楽しんでいた。
全世界最強の海賊団を束ねる最強の男も、甲板で日光浴をしてしまうくらい長閑な日だった。
雲ひとつない空から、雨でも雷でも雹でも、ましてや魚でもないものが落ちてくるまでは。


「もきゃあぁぁぁぁぁ!!!」


最初に気付いたのは誰だったか。
微かに聞こえた波音以外の音。
それが船内からではなく空から聞こえたことにより、空を見上げた物が幾人。
つられるように空を見上げる者がいて、騒ぎに反応した船内の者も出てきて今では甲板に出ていたほぼ全ての船員が空を見上げていた。


「なんだ、ありゃ」

「人か?」

「ガキだ」


ざわざわと騒ぎだす船員---息子たちはさておき、エドワードは空を見た。
老いた目で確認できたのは、大きな塊が落ちてきていることだけ。
息子たちのざわめきに耳を傾ければ、どうやらそれは子供であるらしかった。
非情であるのが海賊だが、時に常人以上に情け深いのも海賊だ。
みすみす自分の目の前で命が失われるのはなかなかどうして悲しい話じゃないか。
助けられるのなら、それに越したことはない。
座っていたラグから身を起こし、歩みを進める。
落ちてくる軌道を確認しながら、大きな身体をめいっぱい広げそれをを受け止めた。


「ふぎゃん!」


それなりの質量と重さを伴って落ちてきたものは、人の子のように見えた。







 
2010/09/16