お子さま行進曲



「オヤジ、えとね、あのね」


は珍しくエドワードの腹の上で寝そべらず、立ったままエドワードと向き合っていた。
いつも人の目を見てまっすぐ話すにしては珍しく、視線はエドワードの目から逸らされ、あちこち彷徨っている。
最近どうにも様子がおかしいこの末娘は、どこで何をどう感じてこうなったのか。
例えどんな告白でも、きちんと聞いてやるのが親というものだろう。
若干こわばった様子のの頭を大きな掌で撫で、ひょいと抱え上げいつもどおり腹の上に乗せてやった。
は随分大きくなったけど、エドワードからしてみればまだまだ小さい子供だ。
にっと笑ってやれば、少しだけつられて笑う。


「なんだ」

「ん…あの、ね」

「言いたくねぇことか?」

「ううん、聞いて欲しいこと」

「言いたくなったら、言やァいい」


ゆっくり言ってやると、ようやくの目線がエドワードと重なった。
またすっと目線が横に揺れて、かわりに口が開いた。


、好きな人ができた」


予想外の告白に、一瞬エドワードの動きが止まる。
を見ると、恥じらうと言うよりもしょげたように眉をハの字に下げ、申し訳なさそうな顔をしていた。
好きな人の話をするのに、どうしてそんな顔をする必要があるのだろうか。
に悲しそうな顔をさせる相手なら、エドワードとて許さない。
どうした、と声をかける前に、再びの口が動いた。


「だから、ごめんなさい」

、オヤジと結婚できなくなっちゃった」

「ごめんね、オヤジ」


何を言い出すかと思えば、この娘は、まったく。
込み上げてくる笑いを飲みこむことなく、グララララ、と笑った。


「そうか、そりゃぁ残念だ」

「ごめんね」

「お前の惚れた男ってのは、俺よりいい男か?」

「オヤジのが大きくてすごいかなぁ」


きちんと言った事と、エドワードが笑ったので肩の荷が下りたのか、も笑いながら話す。
の思い人はモビー・ディック号に乗っていて、厳しくて、面倒見が良くて、いろんなことを知ってて、背が高くて、時々優しくて、頼りになって、よく頭を撫でてくれて、抱きしめてもらった時あたたかくて、髭が似合ってるんだか似合ってないんだかわかんなくて、眠そうな目をしてて、整理整頓きっちりしていて、本を読むのが好きで、海が似合っていて、空を飛んでいる時すごく自由で。
うっすらと頬を染めながら、楽しそうに“その人”の事を語るは、恋する少女だった。
もう、オヤジと結婚する!と言ってくれないかと思うと寂しさが込み上げてくると同時に、大きく成長したのだなと娘の成長を嬉しく思う。

、おやじがいちばんすきっ!

あの幼かった子供は、もういないのか。
ツバをつけとけと言ったのは自分だ。貰い手として許可を出したのも自分だ。
こんな気持ちになるのなら、認めなかったらよかったか。


、マルコが好きか?」


ちょっとはにかんだあと、満面の笑みで


「だいすきっ!!」


と返って来たので、許してやらないこともない、か。


「あれっ!マルコって言ったっけ!?」

「さァな、どうだったか…」

「な、内緒だよっ!?誰にも言っちゃダメだよ!」

「グララララララララ」

「オヤジぃー!?」







  
2010/12/12