突然空から降ってきたのは、妙齢の男だった。
黒い髪に顎鬚を蓄え、顔に刻まれた皺はそれなりの威厳を感じさせる。
「何がどうなったのかさっぱりわからん。うぬ等は誰ぞ」
それを聞きたいのは、レッドフォース号乗組員一同である。
目の前の男は急に空から落ちてきて無傷で着地したと思えば、いきなり我が物顔で話し始めた。
正体不明、突然の来訪者に気を許すほど呑気ではない赤髪海賊団の面々は、警戒の色を濃くし己の獲物を手に構える。
「見た所、船の上か。やれ困った。陸地は何処か」
「お前、誰だ?」
「我思う故に我あり。我は我である」
眉間に銃口をあてがわれているのに、まったく動揺を見せない男は中々に修羅場慣れしているとベン・ベックマンは感じた。
一連の経緯は、船の船長であるシャンクスと副船長を担っている自分も見ていた。
男は特におびえた様子もなく、すぐに船首にいるシャンクスを見つけ、他の誰でもないシャンクスにのみ語りかける。
シャンクスがこの船の船長であると見抜いたのだろうか。
あの昼間から酒を飲む自由人を。
目の前で銃口を構えるベンを無視し、シャンクスを見ながら男は話しだした。
「ふむ。どうやら此処はうぬの船らしいな。邪魔をしている」
「なァ、テメェはなにもんだ?話くらいは聞いてやんよ」
「それは有難い。此処は何処だ?船の上は揺れて落ち着かん、何処でもいいから陸に降ろせ」
「残念ながらそりゃ聞けねェな。ここは海のど真ん中だ」
「なんと嘆かわしい事か。それでは里へは戻れんではないか」
大仰に肩を落とす男に、さてどうしたものかとシャンクスは久しぶりに頭を働かせる。
敵意や殺意は感じない、というよりも、一切何も感じさせない男だ。
何も分からない、それが一番恐ろしい。
おそらく、それなりの死線はくぐっているだろう。
死臭もしない男だが、武器を携えた男どもに囲まれても平然としている様子はどう考えても堅気ではない。
特に副船長であるベックマンが銃口を男に向け、男もそれを認識しているにもかかわらず動じた様子がない。
これは厄介な代物が落ちてきた。
船首にいたシャンクスは甲板で胡坐をかいていたのを立ち上がり、覇気を纏い男を見下ろした。
「俺の船にヨウコソ、どこぞの誰かさん」
「我が名は。ようこそと歓迎されたのならば、無碍に断るのも忍びないものよの」
は笑みを浮かべ、シャンクスを見上げる。
「もてなしは期待出来ねぇぜ」
「持成しか!これは驚いた、うぬは我が人に見えたか、いや愉快愉快!!」
「我思う故に我あり、暫しの間世話になろうぞ」
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