何故このような場所にいるんだ、とか
仕事は如何したんだ、とか
いつこの街に戻ってきたんだ、とか
きっとこの男は浮かび上がる様々な疑問を一蹴してしまうだろう。
黒革張りの優雅な椅子に腰掛け、悠然としているこのは。



「チャオ、ヒバリ」



にっこりと笑って、それだけで全ての質問に対する答えのよう。
本当に、なんの前触れも無くは其処にいた。
何の違和感も無く、そこにいるのが当り前のように。



「何か僕に用事でもあるのかい?じゃなかったら其処どいて、其処は僕の席だ」

「安い贋物の革だね、座り心地が悪いや」

「どいて、って言ってるのが聞こえないの?耳悪いんじゃない」

「んー、もっと部屋に華が欲しいな、このままだと殺風景だと思わない?」

「ねぇ、君は人の話を聞くという事すら出来ないの?」

「とりあえず、ボクがここで暮らす間はどうにかしなきゃね」

「・・・今なんて言った?」



「ホテルのスウィートが空いてなくてね、空くまでこの応接室に泊めてもらおうと思って」



応接室とは、この並盛中の応接室だ。
普段は風紀委員の個室(主に雲雀の私室として)使われている。
学校の中じゃ一番豪華で、立地条件のいい場所。
だが、それはあくまで 『学校内』 であって
御用達のホテルのスウィートに比べればウサギ小屋もいい所だろう。
どうして他のホテルに泊まらなかったのか、と思ったが、 どうせくだらない理由なのだろう、と雲雀は思い聞くのを止めておいた。



「・・・そんな事考えてる場合じゃない」



現実逃避といわんばかりの下らない事を考えている場合ではなかった。
今は居るはずの無いが応接室に我が物顔で其処にいるのが当り前のようにいる事自体が可笑しいのだ。

ついこの間、イタリアに帰ったのではなかったのか。
何も言わずに姿を消して、そしてまた何の前触れも無く姿を現す。
常にイレギュラーであるなので、その存在を明確に把握する事は至難。
そんな彼なので、百歩譲って突如この並盛中の応接室に現れた事は、まぁいいだろう。
しかし、泊まるというのはおふざけにしても少々度が過ぎるのではないだろうか。
冗談なら、こんなものは冗談とも呼べない。
大人で金も持っているであろう彼が、わざわざ、この、学校の、雲雀のいる応接室に泊まろうと言い出すわけがない。
いや、だがそれも 『だから』 という理由で納得させられるような気がする。
全て、彼が起こした減少の全てが、彼が彼であるからこそ不思議と納得できるような気がするのは、
やはり彼という存在が不可思議以外の何者でもないからだろうか。

軽く頭痛がする頭を抱えてちらりとを見てみれば、笑っていた。
あぁ、彼はいつもこんな感じだ。
人の迷惑とか一切考えず、勝手気儘に自分の好きなことをする。
そして厭味ったらしい笑顔。
もう、自棄になるしかないようだ。



「泊まるのなら準備させるから、いい加減其処をどいてくれないかい?」

「こんな安物の椅子に座りたいの?」

「一応、僕の席だからね」

「ふーん、わかんない」



わけわからないのはこっちだよ、と思った。







2006 05 10
  

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