
お子さま行進曲
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「いやいや、イチゴミルク味だってどっかで聞いたことあるぜ」 「ハァ!?ファーストキスつったらレモン味って相場が決まってんだろうが!!」 やんややんやと強面の男どもがファーストキスについて語り合う様は滑稽で似合わなくてむさ苦しいだけだが、幼いにはそんなことわからない。もっと言うなら、ファーストキスの意味すら分かっていないが、みんなが楽しそうなら十全だとにこにこと大人しく話を聞くだけだ。 ふと誰が気付いたのか、テーブルの端でオレンジジュースを飲んでいたに視線が集まり、それに気づいたがなに?と首をかしげる。 「そういやってどうなんだ?」 「さすがにまだだろ」 「でも、子供って誰それ構わずちゅっちゅしたりするもんじゃねーの?」 「ふぁーすときすって?」 「「「そこからか!!」」」 定期的にの無知さに驚かされるも、そこは慣れたものだ。にあれやこれやを教えるのは大抵守役のマルコだが、他の者もあれこれ悪知恵を入れるのが楽しいと気付いた。教えたことをなんの疑いもなく実行するは大人たちの絶好のおもちゃだ。もっとも、度が過ぎれば守役の男や悪知恵の被害者となった者から拳が飛んでくるけれど。 幼子は毎日生きることが勉強だというが、荒くれものだらけの海賊船でこの子供は何を学ぶのだろうか。きっと碌な大人にならないだろうけど、出来たらまともな大人に育ってほしいとは思う。 「れもん、はしってる!あのすっぱいやつな」 「いちごはしらない。あまい?あかい?かじつ?」 「みるく!みるくおいしいな!!サッチがのむとおおきくなるゆってたから、いっぱいのむ!」 の理解度を確認していたら、 「そいで、ふぁーすときすって、なぁに?」 青酸っぱすぎる質問が再び飛んできて、おっさん連中が全員頭を抱えて机に伏した。中には胸を掻きむしって息も絶え絶えだったり、青春とダイイングメッセージを書き残して果てている者もいた。 世の荒波にもまれ、行きついた先が海賊という様々な人生経験を持つ荒んだおっさん達には過去を羞恥心を抉る言葉だった。子供の純粋さと無垢さは時として凶器になる。 もともとの話題が悪かった。きっかけは誰かが「ファーストキスって何の味だっけ?ライム?」とか言い出したからだった気がする。 「えー、キスっていうのはなぁ…」 妙な気恥しさに襲われつつ説明を始め、子育ての難しさを痛感し、主にの面倒を見ているマルコを若干尊敬した瞬間だった。 そして幼女に真面目にキスについて教えるあたり、白ひげ海賊団の船員は結構いい奴らばかりだ。 * 「マルコー!!」 足元まで駆けてきたが抱っこ抱っこと手を伸ばすので抱え上げてやると、小さな手でがしっと両頬をつかまれた。どんどん顔が近づいてきて、何か嫌な予感がすると思うより早く、あー、ん。と。食事中非常によく耳にする音が聞こえた。 「んぐっ。ちゅっ、んー?んー」 ぱくり、と。 唇を食べられた。 それだけでも一瞬何も考えられなくなるくらい衝撃的だったのに、更にはべろりと舐められて無理やり舌も入れられた。年端もいかぬ子供に。幼子に、に。 呆けていた時間はわずか1、2秒だったけれど、体感的には数分キスされていたように思う。すぐに我に返ったマルコは顔面にくっついているを引き剥がし、そのまま全力投球でぶん投げた。 かろうじて理性が残っていたのか、船尾に向かって投げたので空中で一回転しながらは華麗に着地を決める。 そのままてててっと歩いてどこかに消えてしまったので、残されたマルコはやり場のない思いを誰にもぶつけられず、顔を覆ってその場にしゃがみ込むことしか出来なかった。 * 「マルコにふぁーすときすしてきたけどなー、ひるたべたにくのあじだった」 ご丁寧に報告してきたに、ファーストキス論争を繰り広げていた輩は顔を覆って崩れ落ちた。 つい5分ほど前キスとは何ぞやと説明したばかりだというのに、の行動力の恐ろしさをわかっていなかった。 「マルコって、マルコ隊長だよな!?」 「やべェって、入れ知恵したの俺らだってバレたら殴られる奴だって」 「ちゅーか、子供の行動力と考えのなさ恐ェ!!」 うわぁ、と顔を青くする船員をよそに、は「ふぁーすときすはにくのあじ…」とロマンのかけらもへったくれもないことを言っていた。 ← □ → キスの時の効果音は「ズキュウゥゥン」で(笑) 2018/11/22 |