お子さま行進曲



夜の甲板。
今日も白ひげを襲い返り討ちにあったエースと、そのエースを海から引きあげたエースの世話係のが静かに夜を共にしていた。


はなんで、白ひげにいんだよ」

「んー、はねぇ、オヤジに拾ってもらって、生かしてもらってるんだよ」

「捨て子か?」

「迷子、なんだろうねぇ。帰れなくて困ってたら、オヤジが白ひげに入れてくれたんだよ」


普段はうるさいくらい賑やかな船が、今は食堂から漏れる微かな灯りと酒を飲んでいる連中がいるのだろう、小さな笑い声しか聞こえない。
後は波のさざめく音、風が帆を張る音、それだけだ。
闇に慣れた目は、互いを認識する程度には役立つ。
すっかり乾いた髪が、さらりと風に揺れた。


「エースはどうすんの?」

「どうって…」

「だってさ、オヤジに無理やり連れてこられたようなもんでしょ?オヤジの首を取りたいんでしょ?でも無理じゃん。じゃあさ、船降りるの?死ぬの?」

「……………………………」

「本気でオヤジ殺すなら、がエース殺すよ。だけじゃなくて、他のみんなもエースを殺す」

「そこまで、白ひげってのは凄い奴なのか」

、好きな人はオヤジだよ!結婚するならオヤジみたいな人がいい!!」


暗い夜の中でも、喜色を含んだ声がエースの耳に届く。
目を向ければ、満天の星空をバックにが笑っていた。


「オヤジはね、すごいよ。白ひげみんなのお父さんなんだよ!もみんなもね、オヤジが大好きなんだよ!!」

「それって、具体的にどうなんだよ。強いからスゲーの?」

「んー、大きい?こう、身体じゃなくて、背中ってゆーか心?」


言葉では全く伝わらないが、エースにはが何を伝えたいのかがわかった。
エースが身をもって感じていたことだ。
寝首を掻こうと不意を討とうと正面から切り込もうと、どれも白ひげは腕一本でエースをノした。
何度も何度も何度も攻撃を仕掛けるエースを気にした様子もなく、日常の一コマとして受け流す白ひげの度量は大したものだとエースも思う。
千人を超す船員から軒並み崇拝されるのは並大抵のことではない。

海賊王になるための、障害物だと思っていた。
それがこんなに大きなものだったなんて。
憧れてしまうほど、焦がれてしまうほど眩しいものだなんて。
自分の小ささを思い知ってしまったような気がして、拗ねてただけだ。
こんなはずじゃない、自分はもっと大きい人間で、と白ひげの存在を否定したくて、足掻きたくてもがいていただけだ。

認めよう、白ひげは、エドワード・ニューゲートは、尊敬するに足る人物だ。


「エース、はオヤジにエースの世話をするように言われたよ。エースは、どうしたい?」

「俺は…」

「難しいと思うけどね、エースがどうしても嫌だってゆーんなら、オヤジにエースとエースの仲間を降ろしてって頼んだげる」


はエースと向き合い、目を見て言った。
それが本心であることは、付き合いの浅いエースでもわかる。
静寂が、数秒だけ時間を止める。


「でもねぇ」


の言葉で、再び時間が動き出した。


は、エースが家族になってくれたら嬉しいなぁ」







  
はい、エース陥落。翌日マルコにより完全に籠絡されます。
2010/09/21