お子さま行進曲



敵船を完全に沈めた後、エースはモビー・ディック号に戻っていた。
今回は確固たる意図を持って戦闘に臨んだのではない、日頃飢えている連中に、船長であるエドワードが慰労を込めて好きにしていいと言った戦闘だ。
血の気の多いものが我先にと敵船に乗り込み、暴れる。
冷静な隊長たちが援護として立ち、負傷した者や危うくなった者の戦線離脱を促していた。
金銀財宝、その船の持っている宝なんて二の次だ。
戦闘行為、揮われる暴力こそが最大にして唯一の目的である。
一方的な鏖殺、抵抗されればされるほど燃える、血に狂った野獣の群れ。
海賊というのは、海の荒くれ者の集まりなのだから、常に飢えているものだ。
平和と遊行を目的とする海賊団なんてほんの一握り、ほとんどは野心に満ち溢れた強奪と略奪、宝にしか興味のない連中ばかりだ。
当然、白ひげ海賊団も後者に当てはまる。

戦闘後の宴で、なんだかわだかまりを残してエースは酒を煽っていた。
楽しかった、暴れられて。
なのに、どうしてまだ胸にしこりが残っているのかわからない。
楽しかった、殴って蹴って、殴られて、殺されるかもしれないという緊張感は薄かったけれど、喧嘩という心地いい高揚はかわらない。

楽しかった、のに。


「あー、エースいたー」

「どした?お酒進んでないよ?」

「どっか怪我した?」


…」

だよっ!」


船の端、樽の上に座っていると、満面笑顔のが現れた。
いかにも、満足しました!楽しかったです!という感じがうかがえる。
も喧嘩が好きで、先の戦闘では先陣切って敵船に乗り込んでいた。


「久々で、楽しかったねー!」

「そうだな」


がエースの隣に腰を降ろし、笑顔で語りかけてくる。
ぷんとアルコールのにおいに混じって、生臭さが漂ってきた。
なんとなくそれが嫌で、かき消すようにアルコールを煽る。
聞きたい事があるけど、聞けないのはなぜか。
相手がなのだから何を聞いても、すぱっと答えてくれるはずだ。
迷う必要なんてどこにもないのに、どうして躊躇う。
は手に持ったアルコールを飲みながら、笑っている。

何も聞かなかったら、何も分からないけど、何も知ることはない。
今のままで、いいんじゃないか。
自分が何を恐れているかわからないけれど、今のまま、何も知らないままで、いいじゃないか。

知りたく、ない。


「やっぱりさ、たまには血生臭いのもいいよね」

「あぁ (言うな) 」

「腕も鈍っちゃうし」

「そうだな (言ってくれるな) 」


「たまには、殺さないと」


「 (嗚呼) 」

「 (その言葉を、) 」


「 (聞きたくなかった) 」






  
2011/02/24